介護老人保健施設(老健) 開設ガイド(完全版)
元管理者の視点で、人員基準・設備・費用・開設手順・補助金・運営の実務ポイントまで徹底解説します。
結論:介護老人保健施設はこんな方におすすめ
- 病院から在宅への橋渡し(中間施設)を担いたい方
- 医療と介護を一体的に提供できる施設運営を目指す方
- 医療法人や社会福祉法人として地域包括ケアに参画したい方
開設に必要な要件(人員・設備・法人要件)
人員基準
- 施設長:医師(常勤1名以上、管理者を兼務)
- 医師:常勤1名以上(診療を行う)
- 看護職員:入所者48名につき常勤換算1名以上
- 介護職員:入所者3名に対して常勤換算1名以上
- 支援相談員:常勤1名以上
- 支援相談員:常勤1名以上
- 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士:各1名以上(リハビリ提供のため)
- 栄養士:1名以上
- 介護支援専門員(ケアマネ):1名以上
設備基準
- 療養室(1室4人以下、1床あたり床面積8㎡以上)
- 食堂・機能訓練室(リハビリ用設備を含む)
- 診察室・処置室・医務室
- 浴室(一般浴・特殊浴槽)
- トイレ(バリアフリー設計)
- 調理室・洗濯室
- 事務室・相談室
- スプリンクラー・非常用設備
法人・許認可
- 法人格:医療法人・社会福祉法人など
- 設置許可:都道府県知事の認可(老人保健施設開設許可+介護保険事業者指定)
- 必要書類例:
- 定款・登記事項証明書
- 施設整備計画書・収支予算書
- 建物の設計図・設備概要書
- 管理者(医師)・職員の資格証明書
- 消防法・建築基準法関係書類
開設にかかる費用イメージ
初期費用(目安)
- 建設費:15億〜25億円(定員100床規模、地域差あり)
- 医療・リハビリ設備:1〜2億円
- 人件費予備(3か月分):7,000万〜1億円
- 合計:16〜28億円程度
月次収支モデル(例:定員100床・稼働率90%)
- 収入:5,000〜6,000万円(介護報酬+加算)
- 支出:人件費3,000〜4,000万円、食材費500〜700万円、光熱費400〜600万円、医療材料費300〜500万円
- 利益:数百万円〜1,000万円程度(稼働率・加算取得により変動)
※老健の定員は制度上の上限はありませんが、自治体の整備方針や地域ニーズにより、整備対象となる定員規模が異なる場合があります。
特に新規整備の場合は、地域の高齢者保健福祉計画や介護保険事業計画における整備目標を事前に確認し、自治体と協議することが重要です。
開業までの具体的なステップ(チェックリスト)
- 地域ニーズ調査(自治体の高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画を確認)
- 法人設立(医療法人・社会福祉法人)
- 施設用地の確保・設計(条例基準・消防基準・医療設備要件を満たす)
- 補助金申請(国・自治体の基盤整備補助金)
- 人員計画(医師・看護師・リハ職・介護職員の確保)
- 施設建設・竣工検査
- 老人保健施設開設許可申請(都道府県)
- 介護保険事業者指定申請(都道府県)
- 運営開始(病院・居宅介護支援事業所へ周知)
よくあるQ&A(FAQ)
Q:特養との違いは?
A:特養は「生活の場」であるのに対し、老健は「在宅復帰を目的とした中間施設」です。医療・リハビリに重点が置かれます。
Q:医療法人でないと開設できませんか?
A:いいえ。社会福祉法人でも開設可能ですが、施設長は必ず医師である必要があります。
Q:補助金はありますか?
A:はい。国庫補助や自治体の介護基盤整備補助金を活用できる場合があります。
Q:黒字化までの目安は?
A:1〜2年程度で稼働率が安定すれば黒字化が可能です。リハビリ加算や在宅復帰率加算の取得が収支に大きく影響します。
Q:介護老人保健施設(老健)には長期間住み続けられますか?
A:原則として長期入所はできません。
老健は「在宅復帰を目的とした中間施設」であり、病院から自宅への橋渡しを担う役割です。入所期間は原則3か月ごとに医師による継続判定が行われ、必要性が認められれば延長可能です。
ただし、在宅復帰が困難な場合や地域に特養などの受け皿が不足している場合は、実務上は長期入所となるケースもあります。その際は、ケアマネジャーや相談員が他施設への移行支援を行う流れになります。