【元管理者が解説】デイサービスの連絡帳は廃止すべき?ICT/AIで進化する情報共有

紙の連絡帳(左側)と、ICT連絡帳アプリ(右側のタブレット画面)を対比させ、デイサービスの情報共有が効率的で温かいコミュニケーションへと進化している様子。 介護ICT・DX活用
介護AI戦略室:イメージ

【元管理者が解説】デイサービスの連絡帳は廃止すべき?ICT/AIで進化する情報共有

「連絡帳の記入、毎日時間がかかって大変…」「ご家族に、もっとリアルタイムで様子を伝えたいのに…」

デイサービスで長年使われてきた紙の連絡帳。ご家族との大切な絆を繋いできた一方で、その記入・管理の負担は、人手不足に悩む現場にとって大きな課題となっています。「連絡帳を廃止したい」という声が聞かれるようになるのも、自然な流れかもしれません。

この記事では、介護業界で20年以上、時には事業所の管理者として連絡帳の運用改善にも取り組んできた私が、この「連絡帳廃止」というテーマに真正面から向き合います。

従来の連絡帳が果たしてきた役割と限界、そしてICTアプリやAIを活用することで、負担を減らしながら、より豊かで温かいコミュニケーションを実現する未来について。現場目線で、具体的かつ実践的な方法を徹底解説します。

【今までの連絡帳】果たしてきた役割と、見えてきた限界

紙の連絡帳が果たしてきた「安心」「情報交換」「記録」の役割(プラス面)と、「負担」「タイムラグ」「表現の限界」という3つの限界(マイナス面)を対比して示した図。

介護AI戦略室:イメージ

まず、なぜ連絡帳がこれほど長く使われてきたのか、その役割を再確認しましょう。

  • 安心の提供:日中の様子(食事、入浴、活動、表情など)をご家族に伝えることで、「今日も元気に過ごせたんだな」という安心感を提供してきました。
  • 双方向の情報交換:ご家族からは家での様子や体調の変化、服薬情報などを共有してもらい、それを基にデイサービスでのケアを調整する、双方向コミュニケーションの要でした。
  • 記録としての役割:日々のケア内容を記録し、職員間の情報共有や、万が一の際の証拠(エビデンス)としても機能してきました。

【元管理者の経験談】
私が現場にいた頃、連絡帳に書かれたご家族からの「家では見せない笑顔の写真、ありがとうございます」という一言が、職員の大きな励みになったことが何度もありました。連絡帳は、単なる記録ではなく、心と心を繋ぐ温かいツールでもあったのです。

しかし、その一方で、紙の連絡帳には無視できない限界もありました。

  • 記入・管理の負担:手書きでの記入には時間がかかり、職員の負担が大きい。紛失や破損のリスク、保管場所の問題もある。
  • 情報共有のタイムラグ:ご家族が連絡帳を読むのは帰宅後。緊急性の高い情報(体調変化など)をリアルタイムで伝えられない。
  • 表現の限界:文字だけでは、ご利用者の表情や活動の様子を十分に伝えきれない。

これらの課題が、「連絡帳廃止」や「電子化」の流れを生み出しているのです。

【新しいカタチ】ICT連絡帳アプリがもたらす3つの革命

紙の連絡帳の限界を突破するのが、スマートフォンやタブレットで利用できる「ICT連絡帳アプリ」です。これは単なる電子化ではなく、コミュニケーションの質を根本から変える可能性を秘めています。

革命①:リアルタイム共有で「安心」が加速する

デイサービスの職員が撮影した活動の様子が、リアルタイムで家族のスマートフォンに届き、家族が大きな安心感を得ている様子。

介護AI戦略室:イメージ

最大のメリットは、情報の即時性です。職員が入力したその日の様子やバイタルデータ、写真などが、数分後にはご家族のスマートフォンに届きます。「今、こんなレクリエーションを楽しんでいますよ」という写真付きの報告は、ご家族にとって何よりの安心材料になります。

革命②:記録業務の負担が激減する

手書きで時間がかかっていた連絡帳の記入業務(左側)が、ICTアプリの選択式入力や音声入力(右側)によって劇的に効率化し、負担が減っている様子。

介護AI戦略室:イメージ

手書きの手間がなくなり、定型文の挿入や選択肢形式での入力で、記録時間を大幅に短縮できます。音声入力に対応したアプリなら、さらに効率化が進みます。削減できた時間を、ご利用者と直接向き合う時間に充てることができます。

革命③:情報が一元管理され、チーム連携が深化する

ICT連絡帳アプリにより、情報がクラウド上に一元管理され、介護職員、看護師、ケアマネジャーなどの多職種がいつでも共有・連携できる様子。

介護AI戦略室:イメージ

入力された情報はクラウド上に蓄積され、職員なら誰でも、いつでも、どこでも確認できます。「あの連絡帳、どこに置いたかな?」と探す時間はもうありません。看護師やケアマネジャーなど、多職種との情報共有もスムーズになり、チーム全体のケアの質が向上します。

【法的義務は?】連絡帳そのものは義務ではないが…

ここで気になるのが、「連絡帳は法的に義務なのか?」という点です。結論から言うと、「紙の連絡帳」という形式そのものは、法律で義務付けられてはいません。しかし、介護保険法に基づく運営基準では、「サービス提供に関する記録を作成し、利用者及びその家族へ説明を行うこと」「必要な情報を関係機関と共有すること」などが求められています。

つまり、手段は問わないが、「記録と情報共有」の仕組みは必須ということです。ICT連絡帳アプリは、この法的義務を、より効率的かつ確実に果たすための最適なツールと言えるでしょう。
(出典:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準 第九十九条

【導入のポイント】失敗しないICT連絡帳アプリの選び方と進め方

多くのメリットがあるICT連絡帳ですが、導入を成功させるにはいくつかのポイントがあります。

  • 目的を明確にする:「記録時間を減らしたい」「家族とのコミュニケーションを密にしたい」など、導入目的を明確にすることで、必要な機能(写真共有、動画、既読確認など)が見えてきます。
  • 使いやすさを重視する:職員もご家族も、ITが得意な人ばかりではありません。直感的でシンプルな操作性のアプリを選びましょう。無料トライアルなどを活用して、実際に試してみるのがおすすめです。
  • セキュリティを確認する:個人情報を扱うため、セキュリティ対策が万全なシステムを選ぶことが絶対条件です。データ通信の暗号化、アクセス権限の設定、国内サーバーでの管理などを確認しましょう。(参考:厚生労働省「介護テクノロジーの利用促進」)
  • 導入・研修サポート体制:導入時の設定サポートや、操作方法に関する研修、困った時のヘルプデスク体制が充実しているかを確認します。
  • 段階的な導入とフォロー:全ての職員・ご家族が一斉に移行するのは困難な場合もあります。まずは一部の職員・ご家族から試用を開始し、意見を聞きながら徐々に広げていく、紙との併用期間を設けるなどの配慮が必要です。

【未来の連絡帳】AIが「記録」と「気づき」をサポートする時代へ

AIがバイタルや活動記録から連絡帳のコメントを自動で生成支援し(デジタルの文章)、職員がそこに温かい一言(手書きのペン)を加えて、記録の効率化と質の両立を目指す未来の姿。

介護AI戦略室:イメージ

ICT化のさらに先には、AI(人工知能)を活用した次世代の連絡帳の姿が見えています。

  • AIによるコメント自動生成支援:日々のバイタルデータや活動記録をもとに、AIが連絡帳のコメント案を自動で作成。「食事:完食。午後レク:塗り絵に参加。笑顔多く見られました。」といった文章をAIが提案し、職員はそれを確認・修正するだけで記録が完了します。
  • AIによる変化の「気づき」支援:蓄積された日々の記録データをAIが分析し、「〇〇様、最近水分摂取量が減少傾向にあります」「歩行時のふらつきが増えているようです」といった、人間では見落としがちな微細な変化やリスクの予兆を通知。早期の対応を促します。
  • AIによる家族からの質問への一次対応:ご家族からの定型的な質問(「今日の体温は?」「入浴はしましたか?」など)に対し、AIが記録データから自動で回答。職員は、より個別性の高い相談に集中できます。

【これからのコミュニケーション】
AIは、記録業務の負担を劇的に軽減するだけでなく、介護の専門職としての「気づき」をサポートする強力なツールになります。しかし、忘れてはならないのは、AIはあくまで補助であるということ。AIが作成した文章に、職員自身の言葉で「〇〇様が好きな歌を口ずさんでいましたよ」といった温かい一文を添える。その「人の手」が加わることで、テクノロジーは真に心の通ったコミュニケーションツールへと昇華するのです。

まとめ:「廃止」ではなく「進化」。連絡帳は新たなステージへ

デイサービスの連絡帳が、紙の制約から脱却し、ICT/AIの力を借りて効率的かつ温かいコミュニケーションのツールとして新たなステージへ「進化」している様子。

介護AI戦略室:イメージ

デイサービスの連絡帳は、「廃止」されるのではなく、時代の要請に合わせて「進化」していくべきものです。

  • 紙の連絡帳は、温かいコミュニケーションの役割を果たしてきたが、負担やタイムラグという限界もある。
  • ICT連絡帳アプリは、リアルタイム共有と業務効率化を実現する、現代の最適なソリューションである。
  • 連絡帳そのものは法的義務ではないが、「記録と情報共有」の仕組みは必須。ICTアプリはその義務を効率的に果たす。
  • 導入成功の鍵は、目的の明確化、使いやすさ、セキュリティ、そして丁寧な導入プロセス。
  • 未来はAIが記録作成や変化の気づきをサポートし、職員はより「人にしかできないケア」に集中できるようになる。

紙の連絡帳が紡いできた温かさを大切にしながら、ICTやAIの力を借りて、よりスムーズで、より深く、ご利用者・ご家族・職員が繋がることのできる新しいコミュニケーションの形を、ぜひあなたの現場でも模索してみてください。

運営者プロフィール

taka careのイラスト

介護現場の「困った」をAIで解決する
taka care(タカケア) です。
管理者や事務長、大手法人の経営管理を経験したからこそ分かる、実践的な業務改善ノウハウを発信しています。
最新のAIツールから行政手続きまで、あなたの事業所の生産性を高めるヒントをお届けします。

▶ 詳しいプロフィールはこちら

1分でわかる!介護事業 開業診断ツール

「どんな介護事業を始めるべき?」
全25種類の選択肢から、あなたの資金・経験・情熱に最適な事業モデルを専門家が診断します。

▶ 今すぐ無料で診断する

関連記事

タイトルとURLをコピーしました