【元管理者が解説】介護のリスクマネジメントとは?事例とAI活用で事故を防ぐ方法
「リスクマネジメントって、結局何をすればいいの?」「事故が起きないか、いつも不安…」
介護の現場で働く誰もが、一度はこうした疑問や不安を感じたことがあるでしょう。「リスクマネジメント」は重要だと分かっていても、日々の忙しさの中で具体的にどう行動すれば良いのか、迷うことも少なくありません。
この記事では、介護業界で20年以上、施設管理者として安全体制の構築をリードしてきた私が、教科書的な理論だけでなく、現場で本当に役立つ「実践的なリスクマネジメント」の全てを解説します。
明日から使える基本4原則から、転倒・誤嚥などの具体的な事故事例と対策、そしてAI・DXを活用した未来の安全管理まで。この記事を読めば、あなたの施設やチームを事故から守るための具体的なヒントが必ず見つかります。
【結論】介護のリスクマネジメントとは「尊厳を守りながら、危険を減らす仕組み」

介護AI戦略室:イメージ
介護におけるリスクマネジメントをひと言でいうと、「ご利用者の『その人らしい生活』を最大限尊重しながら、予測される危険(リスク)を組織的に減らし、万が一事故が起きてもその影響を最小限に抑えるための、継続的な仕組みづくり」です。
重要なのは、「リスクをゼロにする」ことではない点です。例えば、転倒を恐れてご利用者をベッドに縛り付けるのは、安全かもしれませんが「尊厳」を著しく損ないます。真のリスクマネジメントとは、安全と尊厳の最適なバランスを見つけ出し、チーム全体で実践していくプロセスそのものを指すのです。
【元管理者の視点】
私が管理者だった頃、「外を散歩したい」と強く希望される認知症の方がいました。徘徊のリスクを理由に反対する声もありましたが、私たちは「どうすれば安全に散歩できるか」を考え、職員付き添いのもとで短い散歩を日課にしました。結果、ご本人の笑顔が増え、施設全体の雰囲気も明るくなりました。リスクを恐れて「できない理由」を探すのではなく、「どうすればできるか」を考えること。これが介護のリスクマネジメントの原点です。(参考:厚生労働省「高齢者の尊厳の保持と制度の持続可能性確保を両立させる介護保険施設の整備のあり方に関する研究事業」 )
【実践編】明日から使えるリスクマネジメントの基本4原則と具体例

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リスクマネジメントは、以下の4つの原則を状況に応じて使い分けることで、より効果を発揮します。
① リスクの回避
危険な行為そのものを避けるアプローチです。
具体例:嚥下機能が著しく低下している方には、普通食の提供を避け、安全に食べられるペースト食に変更する。
② リスクの低減
リスクを完全にはなくせないが、発生確率や影響をできるだけ小さくする工夫です。
具体例:浴室の床に滑り止めマットを敷く、ベッドの高さを低く調整して転落時の衝撃を和らげる。
③ リスクの移転
損害の責任を第三者と分担する考え方です。
具体例:万が一の事故に備え、事業所として介護賠償責任保険に加入しておく。
④ リスクの受容
避けられないリスクとして受け入れ、備えることです。
具体例:加齢による身体機能の低下は避けられないため、定期的な体力測定やリハビリ計画で見守り、急な変化に対応できる体制を整えておく。
【要注意】介護現場で起こりやすい3大事故とその対策

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リスクマネジメントを効果的に行うには、まず「何が危険なのか」を知る必要があります。介護現場では特に以下の3つの事故が多発します。
1. 転倒・転落
高齢者施設で最も多い事故です。骨折をきっかけに寝たきりになるケースも少なくありません。
対策例:廊下や居室の段差をなくす、足元を照らすセンサーライトを設置する、ご利用者に合った滑りにくい履物を選ぶ。
2. 誤嚥(ごえん)
食べ物や飲み物が気管に入ってしまう事故。誤嚥性肺炎は高齢者の命に関わる重大なリスクです。
対策例:食事中の姿勢を正す(深く座り、少し前かがみに)、一口の量を調整する、食べやすいように刻み食やとろみ剤を使用する。
3. 誤薬
薬の渡し間違いや、飲み忘れ。ご利用者の体調に深刻な影響を与えます。
対策例:配薬時に職員2名で確認する「ダブルチェック」の徹底、一包化された薬の活用、服薬後に口の中を確認する。
これらの事故は、ヒヤリハット(事故には至らなかった危険な出来事)の段階で情報を共有し、対策を講じることが極めて重要です。(出典:日本総合研究所「令和6年度厚生労働省老人保健健康増進等事業介護保険施設等におけるリスクマネジメントの推進に資する調査研究事業」)
なぜリスクを減らせないのか?現場が抱える課題とAIによる解決策

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多くの現場がリスクマネジメントの重要性を理解しつつも、対策が追いつかない現実があります。その背景には「人員不足」と「情報共有の仕組みの欠如」という根深い課題が存在します。
しかし、こうした従来人の力だけでは解決が難しかった課題に対し、近年AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)が具体的な解決策を提示し始めています。
AI・DXによる具体的な解決策
- AI見守りセンサーによる予測:AIは、ご利用者のベッド上での動きや呼吸パターンを24時間学習・分析します。そして、「起き上がろうとしている」「呼吸がいつもと違う」といった転倒や体調急変の予兆を検知し、事故が起きる前に職員のスマートフォンに通知します。これにより、職員は勘や経験だけに頼らず、データに基づいた先回りの対応が可能になります。
- 記録の電子化による情報共有の徹底:口頭での申し送りや手書きのメモでは、ヒヤリハット情報が共有されずに消えてしまうことがあります。介護ソフトで記録を一元管理すれば、全職員がいつでもリアルタイムに情報を確認でき、「知らなかった」という事態を防ぎます。
- VR/AIによる研修の効率化:VR(仮想現実)を使えば、転倒や誤嚥といった危険な場面を、安全な環境でリアルに疑似体験できます。座学だけでは得られない実践的な対応スキルを、全ての職員が効率的に学ぶことができます。
【これからのリスクマネジメント】
私が管理者だった頃は、事故防止は職員の注意力に頼る部分が大きいのが現実でした。しかし、これからはAIが職員の「目」や「耳」を補強し、見落としを防いでくれます。人とテクノロジーが協力することで、介護のリスクマネジメントは新たなステージに進むのです。(参考:厚生労働省「介護分野における生産性向上の取組の好事例について」)
まとめ:リスクマネジメントは、より良いケアを実現するための創造的な仕事

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この記事では、介護現場におけるリスクマネジメントの基本から、AIを活用した未来の形までを解説しました。
- 介護のリスクマネジメントの真の目的は、事故をゼロにすることではなく、「安全」と「ご利用者の尊厳」を両立させること。
- 「回避・低減・移転・受容」の4原則を理解し、現場の状況に合わせて具体的な対策を実践する。
- 「転倒・誤嚥・誤薬」が3大リスク。ヒヤリハットの段階で情報を共有し、対策を講じることが重要。
- 人員不足や情報共有不足といった課題は、AI見守りセンサーや記録ソフトなどのテクノロジーで解決できる。
リスクマネジメントは、決して「あれもダメ、これもダメ」と行動を制限するためのものではありません。どうすればご利用者がその人らしく、安全に、そして豊かに生活できるかを考える、非常に前向きで創造的な仕事です。この記事が、あなたの現場のリスクマネジメント体制を見直し、より良いケアを実現するための一助となれば幸いです。
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