【元管理者が解説】特養での医療行為はどこまで可能?違法ラインとAI活用術
「特養に入居したいけど、医療行為が必要になったら追い出される?」「介護職が医療行為をするのは違法じゃないの?」
特養(特別養護老人ホーム)は「生活の場」ですが、高齢化に伴い、医療的ケアを必要とする方は年々増えています。しかし、病院ではない特養で「どこまで対応できるのか」という境界線は非常に曖昧で、ご家族だけでなく、現場職員さえも迷うことがあります。
この記事では、介護業界で20年以上、事業所の職員や管理者として医療連携や看取りケアの現場に携わってきた私が、特養における医療行為の実態と法的な境界線を、分かりやすく解説します。
「点滴はできる?」「爪切りは?」といった具体的な事例から、AIを活用して医療安全を高める最新の取り組みまで。この記事を読めば、特養の医療対応に対する不安が解消されます。
【基本】特養における「医療行為」の考え方と法的根拠

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まず大前提として、医療行為(医行為)は、医師法などの法律により「医師・歯科医師・看護師等の免許を持つ者」しか行うことができません。原則として、介護職員が医療行為を行うことは違法となります。
(出典:医師法第17条)
「医療行為」と「生活支援」の境界線
しかし、実際の現場では「これは医療行為なのか?」と迷うグレーゾーンが多数存在します。厚生労働省は、以下の行為については「条件付きで、原則として医行為ではない(介護職員でも実施可能)」という解釈を示しています。
- 体温・血圧・パルスオキシメーターでの測定
- 軽微な切り傷・擦り傷の処置(専門的な判断を要しないもの)
- 軟膏の塗布(褥瘡の処置を除く)
- 湿布の貼付
- 点眼薬の点眼
- 爪切り(爪や皮膚に異常がない場合)
- 口腔ケア(重度の歯周病等がない場合)
これらは、「ご利用者の状態が安定していること」「専門的な医学的判断を必要としないこと」が条件です。異常がある場合は、速やかに医療職へ報告する必要があります。
(出典:厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」)
【Q&A】特養で対応できる医療行為の具体例

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現場でよくある質問に、元管理者の視点でお答えします。
Q1. 特養で「点滴」はできますか?
A. 条件付きで可能です。
点滴の「実施(針を刺すこと)」や「管理」は医療行為であり、看護師(または医師)しか行えません。特養には看護師が配置されていますが、夜間は不在の施設も多いため、「24時間持続点滴」などの対応は困難な場合が多いです。脱水時の一時的な補液など、日中の看護師勤務時間内であれば対応可能なケースが一般的です。
Q2. 「インスリン注射」は誰がやるの?
A. ご本人または看護師です。
ご自身で打てる場合は問題ありません。打てない場合は看護師が対応しますが、やはり看護師不在の時間帯(朝食前や夕食前など)の対応が課題となります。一部の特養では、インスリン対応が必要な方のために早出・遅出の看護師を配置している場合もあります。
Q3. 「喀痰吸引(たんの吸引)」や「経管栄養(胃ろう)」は?
A. 研修を受けた介護職員なら実施可能です。
これらは本来医療行為ですが、所定の研修(喀痰吸引等研修)を修了し、都道府県の認定を受けた介護職員であれば、医師の指示の下で実施することが法的に認められています。ただし、実施できる職員がいない施設では受け入れ不可となるため、事前の確認が必須です。
【現場の課題】医療ニーズへの対応とAI活用

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特養は「生活の場」ですが、重度化に伴い、医療ニーズは高まる一方です。しかし、限られた看護師・介護職員で安全な医療的ケアを継続することは、現場にとって大きな負担となっています。
この課題を解決するために導入が進んでいるのが、AI(人工知能)とICTの活用です。
AIにできること①:バイタル異常の早期検知
ベッドに設置したAIセンサーが、呼吸数や心拍数を24時間モニタリング。「いつもより呼吸が浅い」「心拍数が高い」といった微細な変化を検知し、看護師のスマホに通知します。
これにより、重篤化する前の早期対応が可能になり、救急搬送のリスクを減らすことができます。
AIにできること②:記録業務の効率化と情報連携
医療的ケアには詳細な記録(実施時間、量、状態など)が不可欠ですが、これが職員の大きな負担です。
音声入力AIを使えば、処置をしながら「〇〇さん、吸引実施。性状は黄色、中量」と呟くだけで記録が完了。データは即座に看護師・医師と共有され、申し送り時間も大幅に削減(私が働いていた施設ではひと月80分削減!)できます。
AIにできること③:医療安全の向上
「Aさんの薬が変わりました」「Bさんは明日受診です」といった重要な医療情報を、AIが適切なタイミングで担当職員にリマインド。ヒューマンエラーによる誤薬や対応漏れを防ぎます。
【元管理者からの提言】
特養での医療対応は、マンパワーだけに頼ると限界が来ます。AIを「もう一人の専門職」としてチームに迎え入れることで、職員は安心してケアにあたり、ご利用者は住み慣れた場所で最期まで穏やかに過ごすことができる。テクノロジーは、医療と介護の隙間を埋める、希望の架け橋なのです。(参考:厚生労働省「介護DXの推進」)
まとめ:医療と介護の連携で、安心の暮らしを

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特養における医療行為について解説しました。
- 原則として介護職の医療行為は違法だが、爪切りなど一部は可能。
- 点滴やインスリン等は看護師対応が必須で、施設の体制(夜間看護など)による。
- 喀痰吸引等は、研修を受けた介護職員なら実施可能。
- AI活用により、医療安全の向上と職員負担の軽減が進んでいる。
医療行為が必要になっても、特養で暮らし続ける道はあります。施設選びの際は、「どこまで対応できるか(看取り実績など)」と「AIなどのサポート体制があるか」を確認することが、安心への第一歩です。


